はじめに:産業廃棄物収集運搬業とは?
産業廃棄物(以下、産廃)の適正な処理は、環境保全と企業のコンプライアンスにおいて極めて重要です。この産廃を排出場所から処分場まで運ぶのが「産業廃棄物収集運搬業」であり、事業を行うには廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)に基づき、都道府県知事または政令市長の許可が必要です。
許可を得ずに事業を行った場合、厳しい罰則が科せられます。今回の記事では、これから参入を検討されている方に向けて、許可取得の全体像と申請のポイントを、分かりやすく解説します。
許可の基本:誰から、どの種類の許可を取得するのか
産廃収集運搬業の許可は、事業を行う区域(都道府県・政令市)ごとに取得する必要があります。
(1) 許可権者:事業を行う区域に応じて申請
積込み・荷降ろしを行う区域の自治体の許可が必要です。
例:東京都で積込み、神奈川県で荷降ろしをする場合⇒東京都知事と神奈川県知事の両方の許可が必要。
事業計画に応じて、複数の自治体への申請が必要となるケースが一般的です。
(2) 収集運搬する廃棄物の種類
一口に「産業廃棄物」といっても、その種類は20種類に分類されています。事業で取り扱う予定の廃棄物の種類(例:廃プラスチック類、金属くず、廃油など)を特定し、その種類ごとに許可を取得しなければなりません。
許可取得の要件:5つのハードル
産業廃棄物収集運搬業の許可は、主に以下の5つの要件をすべて満たしていることが必要です。
(1) 人的要件:講習会の修了
申請を行う法人の役員、または個人の申請者、そして政令で定める使用人(支店長など)は、公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター(JWセンター)が実施する「産業廃棄物収集運搬課程」の講習会を受講し、修了証を取得している必要があります。
- この修了証が、産廃処理に関する専門的な知識と技能を有することの証明となります。
- 講習会はオンライン形式もありますが、有効期限(概ね5年)があるため、注意が必要です。
(2) 施設要件:運搬車両・容器・駐車場の確保
運搬車両: 収集運搬を行う予定の車両(トラックなど)を保有またはリースしていること。飛散、流出、悪臭を防止できる構造・設備を備えている必要があります(例:荷台を覆うシートや密閉構造)。
駐車場: 運搬車両の保管場所を確保していること。都市計画法、農地法などの法令に適合している必要があります。
積替・保管を行う場合: 積替保管を行う場合は、さらに厳しい施設基準(場所の確保、囲い、表示など)が求められます。
(3) 経理的要件:安定した事業継続能力
申請者が、産廃収集運搬業を継続的・安定的に行うことができるだけの経理的基礎を有していることが求められます。具体的には、以下の財務状況が審査されます。
- 債務超過でないこと: 原則として、直近3年間の貸借対照表(B/S)で債務超過となっていないこと。
- 利益が出ていること: 事業活動を継続できるだけの収益性・流動性があること。
- 赤字の場合の対応: もし債務超過や赤字が続いている場合でも、親会社からの支援証明や、具体的な再建計画書を提出することで、許可を得られる可能性があります。この点の対応は専門的な判断が必要です。
(4) 欠格要件:法律に抵触しないこと
申請者(法人・役員・政令で定める使用人)が、廃棄物処理法に定められた以下の欠格要件に該当していないことが必要です。
- 法による処分: 廃棄物処理法や関連する法律に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行が終わってから5年を経過していない者。
- 暴力団関係: 暴力団員等である、または事業活動を支配している者。
- 不法行為: 過去に不適正な処理を行い、許可を取り消されてから5年を経過していない者。
(5) 事業計画要件:適正な事業計画の策定
廃棄物の種類、運搬方法、収集運搬を行う経路、人員配置、環境保全対策など、事業全体に関する適正かつ具体的な計画を策定し、申請書に明記する必要があります。
積替保管の有無による許可の違い:施設要件と難易度
産業廃棄物収集運搬業の許可は、運搬中に積替えや保管を行うかどうかで、求められる施設要件と申請の難易度が大きく異なります。
(1) 積替保管なし(直行・通過運搬)
これは最も一般的な許可形態で、排出場所で収集した廃棄物を、途中でトラックから降ろしたり、一時的に保管したりせず、そのまま最終処分場や中間処理施設へ運搬する方式です。
- 施設要件: 車両と駐車場が主な要件となります。
- 申請の難易度: 積替保管ありに比べると、難易度は低いです。
(2) 積替保管あり(一時保管施設を設ける)
収集した廃棄物を、自社の管理する施設(倉庫やヤード)に一時的に降ろし、廃棄物の種類や運搬効率を考慮して、再度トラックに積み替えて運搬する方式です。
この許可を得ることで、効率的な広域運搬や、少量ずつ集めた廃棄物をまとめて運搬することが可能になりますが、環境保全上のリスクが高くなるため、非常に厳格な施設基準が適用されます。
- 施設要件:
- 保管場所の設置: 周囲に囲いを設け、廃棄物の種類や保管量の上限を記した掲示板の設置が必要です。
- 飛散・流出防止: 床面を不浸透性(水を通さない)の構造とし、地下水の汚染を防ぐための措置(堰、排水設備など)が必要です。
- その他: ねずみや害虫の発生防止措置、悪臭防止措置なども求められます。
- 申請の難易度:
- 非常に高いです。特に保管施設の立地場所(都市計画法上の区域など)や、構造基準に対する審査が厳しく、申請準備には多大な時間と費用がかかります。
許可申請の流れと必要書類(全体像)
許可取得までの大まかな流れと、主な提出書類は以下の通りです。
(1)申請の流れ
- 講習会の受講・修了
- 事業計画の策定・要件の確認(車両・駐車場・経理状況の整理)
- 必要書類の作成・収集(各種証明書、契約書、財務諸表など)
- 事前予約・申請(自治体によっては事前の予約相談が必要)
- 審査・現地確認(書類審査後、自治体職員による施設・車両の確認が行われる場合があります)
- 許可証の交付
(2)主な必要書類(一例)
- 申請書一式(自治体所定の様式)
- 講習会修了証の写し
- 定款及び履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 住民票(個人の場合)
- 役員等の名簿・誓約書
- 運搬車両の写真、車検証、賃貸借契約書
- 駐車場の位置図、平面図、賃貸借契約書
- 直近3年間の財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)
- 納税証明書
- 事業計画書、運搬経路図
あくまでも一例となります。必ず事前に自治体へ確認するようにしてください。
許可取得後の重要事項
無事に許可を取得した後も、コンプライアンスの遵守が必須です。
(1) 許可の有効期間
許可には有効期間(通常5年間)があり、継続して事業を行うためには期間満了前に更新申請を行う必要があります。更新申請も新規申請とほぼ同様の手続きが必要となるため、計画的な準備が必要です。
(2) 変更届の提出
申請内容に変更が生じた場合(例:役員の変更、運搬車両の入替、駐車場の変更など)は、変更があった日から原則として30日以内(または事前に)に、自治体に変更届を提出しなければなりません。これを怠ると、許可取り消しの原因にもなりかねません。
(3) 帳簿の備え付けと管理
収集運搬した産業廃棄物について、種類、量、運搬先、年月日などの詳細を記載した帳簿を備え付け、適切に管理・保存することが法律で義務付けられています。
最後に
産業廃棄物収集運搬業は建設業に付帯して許可を取得される場合も多いですが、かなり煩雑な手続きを要します。
別事業をされている場合は、並行して進めなければならず、かなりのご負担となります。
当事務所では取得要件の確認から書類作成、申請まで全て代行して行います。
※講習だけは受けていただく必要があります
「許可を取得したい」、「許可が取れるか不安だ」という方は、ご相談だけでもかまいません。
お気軽にご連絡ください。
