「これから公共工事に参入したい」と考えている建設業者にとって必要となるのが、「経営事項審査(けいえいじこうしんさ)」、通称「経審(けいしん)」です。
公共工事の入札に参加するには、原則としてこの経審を受けていることが必須条件となります。
経審の結果、算出される「総合評定値(P点)」は、決算書とはまた違った会社の成績表のようなもので、これが高ければ高いほど、競争入札において有利になります。
今回は、公共工事参入を目指す建設業者様に向けて、経審の基本的な仕組み、審査項目、そして準備のポイントについて、基本的な事項を解説します。
1.経営事項審査(経審)とは?
経審の目的と位置づけ
経審とは、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者(元請業者)を対象に、その経営状態や技術力などを客観的に評価する制度です。
建設業許可を持っているだけでは公共工事の入札には参加できません。
入札参加資格を得るためには、以下の手続きが求められます。
- 建設業許可の取得
- 経営事項審査の受審(必須)
- 入札参加資格審査の申請(自治体ごと)
総合評定値(P点)とは?
経審の結果、算出されるのが総合評定値(P点)です。
このP点が、入札における競争力を決定づける最も重要な数値となります。
P点は、会社の以下の4つの要素を数値化し、それぞれの要素に定められたウェイトをかけて合計することで算出されます。
ウェイトが高い項目ほど重視されているということになります。
計算式 P = 0.25X₁+ 0.15X₂ + 0.20Y + 0.25Z + 0.15W
このように、P点は複数の要素の総合力で決まります。
次に、各項目(X・Y・Z・W)について内容を見ていきます。
2.経審の主要な審査項目(評価項目)
経審は大きく分けて4つの審査項目があり、それぞれがさらに細分化されています。
(1) 経営規模(X点:ウェイト合計40%)
会社の規模を評価する項目です。X点には、X1(工事実績)とX2(財務状況)の2つがあります。
- X1:完成工事高評点(ウェイト25%)
過去2年間または3年間の平均完成工事高を評価します。選択した期間の平均が高いほど、高得点になります。公共工事の実績だけでなく、民間工事の実績も含めて評価されます。 - X2:自己資本額および平均利益額(ウェイト15%)
直前決算の自己資本額と、2年間の平均利払前税引前償却前利益(EBITDAベースの利益額)を評価します。財務的な安定性と収益性を重視する項目です。
(2) 経営状況(Y点:ウェイト20%)
会社の財務体質の健全性を評価する項目です。
このY点の算出は、国土交通大臣の登録を受けた「経営状況分析機関」が行います。
Y点では、以下の8つの財務指標に基づき、会社の負債抵抗力や収益性・効率性などが総合的に分析されます。
- 純支払利息比率
- 負債回転期間
- 総資本売上総利益率
- 売上高経常利益率
- 自己資本対固定資産比率
- 自己資本比率
- 営業キャッシュフロー
- 利益剰余金
企業の黒字化はもちろん、借入金の圧縮や自己資本比率の改善など、財務基盤の強化がY点アップに直結します。
(3) 技術力(Z点:ウェイト25%)
会社の持つ技術レベルを評価する項目で、X1と並んで最もウェイトが大きい項目の一つです。
- 技術職員数および資格レベル
各業種に配置されている技術職員の数と、その職員が保有する資格(一級・二級施工管理技士など)のレベルに応じて評価されます。高度な資格を持つ技術者が多いほど、高得点になります。 - 元請完成工事高
下請工事ではなく、発注者から直接請け負った元請工事の完成工事高を評価します。元請としての実績とノウハウの蓄積が評価されます。
(4) その他(社会性等)(W点:ウェイト15%)
会社の社会的な貢献度やコンプライアンス体制を評価する項目です。
- 労働福祉の状況:雇用保険、健康保険、厚生年金保険、建退共(建設業退職金共済制度)への加入状況が厳しく審査されます。未加入は大幅な減点対象となります。
- 法令遵守の状況:過去に指示処分や営業停止処分を受けていないか。
- 建設業の経理の状況:建設業経理士の配置など、適切な経理体制が評価されます。
- 防災活動への貢献、研究開発の状況、ISO等の取得状況なども加点対象となります。
- 担い手の育成及び確保に関する取組:若年技術者の割合や、建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用状況なども評価対象となっています。
3.経審受審の流れと準備のポイント
受審の基本的な流れ
経審は、以下の2つのステップで構成されています。
- 経営状況分析(Y点)の申請・受審
- 経営状況分析機関に対し、財務諸表などの必要書類を提出し、Y点の評価を受けます。
- 経営規模等評価(X・Z・W点)および総合評定値(P点)の申請・受審
- Y点の分析結果通知書を添付し、管轄の自治体または地方整備局に申請します。この審査を経てP点が確定します。
公共工事入札までのスケジュール感
経審の結果(P点)の有効期間は、審査基準日(通常は直前決算日)から1年7ヶ月です。この有効期間内に、各自治体の入札参加資格審査に申請する必要があります。
初めて経審を受ける方は、手続きに慣れていないため、準備に時間を要することが予想されます。
- 決算確定
- 税務申告
- Y点分析申請(1~2ヶ月)
- X・Z・W点申請・審査(1~2ヶ月)
- P点通知
- 入札参加資格申請(各自治体の受付時期による)
決算日から約3~6ヶ月程度の準備期間を見込んで、計画的に進めることが重要です。
評点アップに向けた準備のポイント
公共工事参入を目指すうえで、経審の点数アップは最重要課題です。
以下の点を意識して、日々の経営を行いましょう。
- 財務の健全化(Y点・X2点対策)
- 自己資本比率を高めるため、過度な借入を避け、利益を積み上げる。
- 不要な資産を整理し、総資本を効率化する。
- 技術力の強化(Z点対策)
- 一級・二級施工管理技士などの有資格者を計画的に増やし、技術職員として登録する。
- 技術者教育を充実させ、能力向上に努める。
- 実績の積み上げ(X1点・Z点対策)
- 小さな工事でも、着実に元請工事の実績を積み重ねる。
- 工事の品質向上に努め、良好な実績を築く。
- 社会性の確保(W点対策)
- 社会保険の加入は必須です。未加入であれば、早急に手続きを完了させる。
- 建設業経理士の配置、CCUSへの登録など、内部管理体制を整備する。
まとめ
経営事項審査(経審)は、建設業者様の総合的な実力を客観的に示すものです。
経審の各審査項目を目標に、財務体質の改善、技術力の向上、そしてコンプライアンスの徹底を進めることで、結果として会社そのものが強化されます。
また、公共工事は老朽化したインフラ整備などにより需要が増加しており、建設業者様の事業拡大のチャンスとなります。
しかし、必須となる要件も多く、手続きは非常に煩雑です。
手続きを確実に進めるためにも、事前に専門家へ相談されることをお勧めします。
当事務所でも経審の申請をサポートしておりますので、「公共工事に参入したいが忙しくて時間がない」「手続きを進める方法がよく分からない」という方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
